【悲報】PTA飲み会帰りに同じマンションのパパに指輪付きのまま生中出しされた結果wwww
新宿のチェーン居酒屋で十一時半まで盛り上がったPTA役員の打ち上げ、終電を逃して四〇五号室の井川さんと相乗りタクシー。零時四十一分、リビングのソファで、ストッキングは膝下、下着は脇にずらしただけ、薬指の指輪はソファの革を引っ掻きながら自分から脚を絡めた人妻の告白。
二十三時四十二分、新宿駅西口タクシー乗り場。
「あ、奥さん、こっちこっち」
手を振っているのは、子どもの小学校で同じPTA役員をやっている、四〇五号室の井川さん。私は六〇二号室。同じマンションの違う階の、ぜんぜん違う家庭の、お父さん。
終電は、もう三本前に出てしまっていた。
打ち上げは盛り上がりすぎた。会計のとき幹事のママが「タクシー組と電車組で分かれましょう」と言って、私は「電車派です」と手を挙げたのに、ホームに着いた頃にはどうしようもなく遅かった。井川さんも同じだった。同じマンションの住人で、行き先も同じだから、相乗りしようということになった。それだけのことだったはずだ。
タクシーに乗り込む前、私はスマホで時間を確認した。夫の出張先は北海道。明日の昼に帰ってくる。子どもは私の実家にお泊まり。今夜の私は、自由だった。自由であることに、私は妙な落ち着かなさを感じていた。
二十三時五十六分、首都高三号線、車内。
井川さんは、わずかに酔っていた。私もだ。ハイボールを三杯。普段なら二杯で止める。今夜は、なぜか三杯飲んでしまった。理由は自分でもわかっていない。理由はわかっていない、と言っているうちはまだ大丈夫、と思っていた。
「奥さん、今日のあのスピーチ、面白かったですよ」
「やめてください、恥ずかしい」
「いやほんと。子どもの担任、絶対あれで覚えましたよ、二組の松井さんのことを」
松井、というのが私の名字だ。井川さんは、私の名前を「奥さん」と呼ぶ。当たり前の呼び方なのに、車内の暗さのせいか、その「奥さん」が今夜は妙な重さを持っていた。
タクシーは首都高を流れていく。窓の外の街灯が、ぴた、ぴた、と一定の間隔で井川さんの横顔を照らしては、暗がりに戻した。横顔は、夫より少し角ばっていた。鼻筋がまっすぐで、眉の上に薄い傷があった。子どもの頃のものか、最近のものか、聞いたら、夜の意味が変わってしまう気がして、聞かなかった。
「井川さん、奥さんは?」
「実家に帰してます、夏休みのあいだ。子どもと一緒に」
「あ、うちもです、今夜は」
言ってしまってから、自分でも、なぜそれを言ったのか、と思った。
井川さんは何も言わなかった。何も言わずに、窓の外を見ていた。返事をしないことが、いちばん危ない返事だった。
零時十八分、マンションのエントランス。
エントランスのオートロックを開ける指が、私のほうが少し早かった。私は普段、夜中にこの集合ポストの前を一人で通ったことが、たぶんなかった。昼のママ友としての挨拶の場所、夕方の宅配ボックスの場所、その同じタイルの上に、深夜の自分が立っていた。日常の場所が、深夜になるとこんなに違うのか、と思った。
「奥さん」
「はい」
「うちで、ちょっと休憩していきますか」
来た、と思った。来た、と思った時点で、私はもう半分、断れていなかった。
「妻、いないんで。冷たい水でも飲んでいけば、酔いも少しさめるでしょ」
理屈は、通っていた。だから危なかった。理屈の通る誘いほど、断る言葉が出てこない。私は「じゃあ、ほんの少しだけ」と言ってしまった。「ほんの少しだけ」が、後でいちばん効いてくる言葉だと、その時の私は知らなかったのだろうか。知っていたと思う。知っていて、言った。
零時二十六分、四階。
エレベーターの階数表示が、六に行かずに四で止まったとき、私は自分の階を通り越したことを、はっきり自覚した。階数表示の数字の変化を、私はずっと見ていた。1、2、3、4。四でドアが開いた。
廊下は静かだった。どの家のドアも閉まっていて、廊下灯がほの暗く、私の踵の音だけがやけに響いた。井川さんはサンダルに履き替えるみたいに、玄関の鍵を音を立てずに開けた。慣れていた、と思ってしまった。誰に対しての慣れか、考えないようにした。
部屋に入る。
リビングは、女性の手が入っていることが、すぐにわかった。クッションの並べ方、テレビ台の上の写真立て、ダイニングテーブルに置かれた子どもの絵。井川さんの奥さんは、私もPTAで何度か会ったことがある。明るい人だった。優しい人だった。私はその人の家のソファに、腰を下ろそうとしていた。
腰を、下ろしてしまった。
零時三十四分、井川さん家のソファ。
「水、これでいいですか」
差し出されたグラスは、子ども用のキャラクターものだった。それを井川さんは慌てて「あ、ごめんなさい、こっちで」と取り替えに行った。その慌てぶりが、妙に人間くさくて、私は少しだけ笑ってしまった。笑ったことが、たぶん最後の決め手だった。
井川さんは隣に座った。距離は、人ひとり分。私はその距離が、人ひとり分しかないことを、ずっと意識していた。
「奥さん、髪、長くなりましたね」
「そうですか?」
「春の懇談会のころより、たぶん」
たぶん、の語尾が、優しかった。
井川さんの指が、私の髪の毛先に触れた。触れた、と書くと強すぎる。触れるか触れないか、というくらいだった。じれったかった。じれったいことが、いちばん体に効いた。早く何かを起こしてくれれば、私は「やめてください」と言えただろう。じれったいまま、私は、何も言えなかった。
「奥さん」
「だめです、井川さん」
口に出して、自分の声がかすれていることに気づいた。かすれた声で「だめ」と言っても、誰も止まらない。井川さん本人ですら、止まらない。
零時四十一分、リビングの間接照明だけ。
最初にキスをしたのは、どちらが先だったか、いまでも自信がない。たぶん同時だった。同時だった、と思いたい。一方的にされた、にすると、私の罪が少し軽くなるけれど、嘘になる。
唇は、夫より少し薄かった。歯磨きの匂いと、ハイボールの匂いと、そのうしろにかすかな煙草の匂いがした。井川さんは煙草を吸う人だったのか、と私は今夜初めて知った。夫は吸わない人だ。違う匂いを、私は知ってしまった。
ブラウスのボタンを外したのは、私のほうが少し早かった気がする。自分で外せば、外された、にならないと、どこかで計算していた。井川さんは私のスカートの上から、太ももの外側を、じりじりと撫で上げた。指は太く、節があった。子どもを抱き上げる手だ、と思ってしまった。思ってしまった瞬間、私の脚が、自分の意志ではなく開きかけた。
「奥さん、すごい、太もも、熱い」
言葉責めをするタイプの人ではなかった。観察したことを、ぽつ、ぽつ、と口に出す人だった。それが余計に効いた。聞かれたくないことを当てられる怖さ、と、当てられる嬉しさが、同じ皮膚の上で混ざった。
零時五十三分、寝室には、行かなかった。
寝室には、行きませんでした。私たちは、ソファの上で、最後まで全部の服を脱がなかった。私のブラウスは半分肩から落ち、ブラのカップは下にずれて、片方の胸だけが井川さんの口の中にあった。スカートはまくれて、ストッキングは膝の下までしか脱げていなかった。下着は、井川さんの指で脇にずらされただけで、太もものあいだに残ったままだった。
それが、いちばん恥ずかしい姿勢だった。完全に裸になるより、ずっと、ずっと恥ずかしかった。完全な裸は「行為」だ。中途半端な脱げ方は「事故」だ。私は事故にしたかった。事故にしたい、と願いながら、自分から井川さんの肩を掴んでいた。
「奥さん。入れていいですか」
その聞き方が、ずるかった。
聞かれたら、答えなければならない。答えなければ、入れてこない。私は答えなかった。答えない代わりに、井川さんの腰に脚を絡めた。絡めた、ということは、答えた、ということだった。私はもう、自分のずるさを言い逃れできなかった。
入ってきた瞬間、声が出てしまった。手で慌てて口を塞いだ。マンションの壁は薄い。隣の部屋の住人を、私はPTAで知っている。明日もすれ違う。その怖さで、私は声を必死に殺した。声を殺すことに集中しているうちに、井川さんの腰が、ゆっくりと動き始めた。
ぬる、とも、こく、とも違う、もっと細かい音だった。湿った布が擦れる音。ストッキングの膝下と、ソファの革と、私の太ももが互いに擦れる音。耳のすぐ近くで、井川さんの呼吸が乱れていた。乱れた呼吸の隙間で、井川さんは何度か、私の名前――松井さん、ではなく、下の名前――を呼んだ。私の下の名前を、井川さんがいつから知っていたのか、知らないけれど、今夜はそれを聞いた。
夫が私の名前を呼ぶときと、まったく違う響きだった。夫は「ねえ」で済ますタイプだった。久しぶりに名前で呼ばれて、私はそれだけで、もう、ほとんど終わってしまいそうだった。
一時十二分、終わった、けれど、終わっていない。
果てるとき、井川さんは私の中ではなく、外で出した。約束したわけではなかった。けれど、なぜか自然と、そうなった。私の下腹のうえに広がった生ぬるいそれを、井川さんは自分のシャツで拭いた。子どもがいる家の父親の手つきだった。
私たちは、しばらく言葉を交わさなかった。井川さんがキッチンで水を二杯入れて持ってきた。さっきの子ども用のキャラクターのグラスではなかった。
「……ごめんなさい」
私が先に言った。
「いえ。こっちが、すいません」
謝り合うのが、いちばんよくなかったかもしれない。謝り合うと、また会ったときの理由になる。「あの夜のこと」を共有した二人になる。私は明日の朝、校門の前で井川さんと挨拶しなければならない。来週はPTAの会合で隣に座るかもしれない。そのたびに、私たちは「あの夜のこと」を思い出すだろう。思い出すことを、たぶん私はやめられない。
一時三十七分、自分の家、六〇二号室。
エレベーターには乗らず、階段を上がった。四階から六階まで、二フロア分。脚が少し震えた。鍵を開けて、玄関で立ち止まった。
夫の靴は、ない。子どものスニーカーも、ない。誰もいない我が家のリビングは、出かけたときのまま、テーブルのうえに私のマグカップが置いてあった。朝のコーヒーの底が、固まっていた。
シャワーを浴びた。お湯を熱くしすぎた。皮膚が赤くなった。それでも、井川さんの指の感触は、肩の上に残っている気がした。鏡を見た。鏡の中の女は、化粧が落ちて、目の下が薄く滲んで、でも、口元だけがどこか緩んでいた。緩んでいる自分を、私は許せなかった。許せなかったのに、その口元を、自分の指で撫でてしまった。
明日、井川さんからLINEが来るだろうか。来てほしいのか、来てほしくないのか、私はまだ決めかねている。決めかねている、ということは、たぶん、来てほしいのだ。心のどこかで。
子どもが帰ってくるまで、あと十四時間ある。夫が帰ってくるまで、あと三十六時間ある。私はそのあいだに、決めなければならない。何を決めるのかも、まだ決まっていない。
ベッドに入った。夫の枕に顔を埋めた。夫の匂いがした。安心する匂いだった。安心する匂いを嗅ぎながら、私は太もものあいだに、まだうっすらと残っている、井川さんの匂いを、はっきりと感じていた。
二つの匂いが、同じ私の体のなかで、混ざらずに、別々に、存在していた。
それが、いちばん怖かった。
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